2015.03.16
次に素材。
私達は、絹という素晴らしい布地素材を手に入れました。しなやかで、肌触りもよく、何より丈夫。自分に似合わない色であれば、染め替えることもできます。
そして、この素晴らしい絹で織り上げたきものを汚れたら洗うのではなく、きものをいたわりながら汚れないように大切に扱ってきました。たとえば下着である長襦袢は、きものと同じような形をしています。きものの下に、きものと同じ形のものを着るのですから、きものが直接肌に触れることはほとんどありません。ですから皮脂汚れが付かないのです。つまり、お洋服のように頻繁に洗う必要がないので、生地の傷みも少ないというわけです。
それでも、様々な理由で、そのまま受け継ぐのが難しいこともあるでしょう。
このきものは、母が、お嫁入りの時に父方から結納の品として頂いたものです。
父のお母さん、つまり母から見るとお姑さんが織った白生地を染めたものだそうです。私はこのきものが大好きで、母がこれをを着るたびに「おかあさん、このきもの頂戴」とおねだりしていましたがなかなか首を縦には振ってくれず、やっと譲り受けたのは、私がこの仕事を始めてしばらくしてからでした。
きものの雰囲気から単衣仕立てにして、6月、9月は本当によく着ました。たくさん着すぎて、裾が傷んでしまいました。母は、私より背が低かったので、裾の傷んだ部分をカットすると、もう私には着る事が出来ません。裾の傷んだきものは、そのままでずっと箪笥の奥にしまわれていました。
が、母が亡くなり、私は、どうしてもまたこのきものを着たいと思うようになりました。そしてこの着物を帯として再生させました。
母から譲り受けたきものに初めて袖を通すときに感じた、うれしさ、優しさ、安心感を、帯を締める時にまた、感じる事ができる幸せをありがたいと思っています。
きものが受け継がれる理由は、他にもまだあるかもしれませんね。皆さんも探してみてください。