2015.03.16
着物はなぜ、母から子へ、子から孫へと受け継がれるのでしょう?
その理由を探ってみたら、6つ見つかりました。
1 “思い”も受け継ぐきもの
2 アレンジしやすいから受け継がれる
3 サイズ調整ができるから受け継がれる
4 流行に左右されないから受け継がれる
5 お手入れの概念を覆すきもの
6 形を変えて受け継がれる
人にきものを着付けるのも、私の仕事のひとつです。
成人式のお支度の時、「これは私が20歳の時に着たきものなんですよ」と嬉しそうに話してくださるお母様がいます。ご自身の成人式を思い出しながら、今、わが娘がその同じ振袖を着る事に感慨深いものがあるのでしょう。お父様も奥様に「お前がこのきものを着ていたのを覚えているよ」などと言いながら、若かりし頃の奥様とわが娘を重ね合わせています。そしてもちろんお嬢様もキラキラとしてうれしそう。
自分のために新しく誂えたきものを着るのももちろんうれしいものですが、お母様から譲り受けたきものには、きもの以上の”何か”があります。お母様のきものを着る時、お嬢様はきものと一緒にお母様の”思い”も身にまとっているのです。楽しい事、つらい事、嬉しい事、悲しい事。色んな事があったであろうお母様の青春時代。悩み、苦しんだ事もあったかもしれないけれど、過ぎてみれば良い思い出。今こうしてわが娘の晴れ姿を見られる幸せを思いながら、娘にも”過ぎてみれば良い思い出”と思えるような人生を歩んでほしいと願っているのではないでしょうか。だからお母様のきものに包まれたお嬢様は、お母様に愛され、守られているという自信と安心感で輝くのだと思います。
きものは、母から子へ、子から孫へと”思い”と共に受け継がれていくもの。欧米の宝石に似た感覚があります。でも、なぜ好みや体型の違うお嬢様がお母様のきものを着る事ができるのでしょうか。それは・・・きものに込められた素晴らしい智慧のおかげなのです。
好みも体型も違うお嬢様が、なぜ、お母様から譲り受けたきものを着ることが出来るのでしょうか?
私達は洋服を選ぶ時、自分に似合う色、デザインであるとか、自分に合ったサイズであるという事を考えます。たとえば”私は足がスラッと細くてきれいだから、短めのスカートが似合う”とか、逆に”私は足に自信がないからパンツスタイルが好き”と言うように、自分がより美しく見える洋服の形を考えます。パンツスタイルが好きというお嬢様が、お母様からミニスカートを譲り受けたとしても、積極的に着る気持ちにはなりにくいのではないでしょうか?
しかしきものは、みな同じ形をしています。違うところは、せいぜいお袖が長いか短いかの程度。こどもからお年寄りまで、そして痩せている方からふくよかな方まで、みな同じ形のきものを着るわけです。
そしてきものは、全身を包み込み肌の露出を抑えた衣服。体型に自信のない方には嬉しい衣服ですし”隠す”ことで想像力をかき立てられるセクシーな衣服でもあると思います。つまり、きものは洋服のように”形が好みではない”ということはありえない訳です。
そして、色。ほとんど全身をそのきものの色で覆うわけですから、好みではない色はどうしようもないと思われがちですが・・・きものは胴の部分に帯を巻きます。この帯が、きものを真ん中で分離してしまうわけですから、帯の存在はかなり大きいといえます。そして、この帯や帯に付随する帯揚げ、帯締めの選び方1つで、きものの表情を変えることができます。
同じきものですが、帯などを変える事によって全体のイメージが違ってみえませんか?
そして半衿。言われなければ気がつかないくらいのほんの少しの色の違いですが、見比べてみるとイメージが違いませんか?
半衿は本来、きものの汚れを防ぐ目的で、きものを直接肌に触れさせないようにするために用いられるものですが、おしゃれな着こなし術にも大きく貢献しています。
実はきものは、自分の好みに合わせやすい衣服だったのです。