2016.08.16
昨日は終戦記念日でした。
戦没者追悼式典で、美智子様は和服をお召しでしたね。
鼠色っぽい色無地の染め抜き3つ紋付きに黒共名古屋帯、帯締めや帯揚げは黒。つまり、一般庶民の喪の場合の略礼装です。(略礼装の色無地の色は、地味目の色であれば他の色でも大丈夫、鼠色でなければならない訳ではありません)
ちなみに一般庶民の礼装は、黒無地の染め抜き5つ紋付きで、その他は略礼装の時と同じ黒共名古屋帯、帯締めや帯揚げは黒。(礼装の場合の着物は黒と決まっています。ごくまれに白の場合もありますが…)
先ほど「一般庶民の」と書いたのは、皇室では公式行事の時の礼装は洋装と決められているからです。なので、和服がお好きな美智子様がお着物をお召しになるのは、非公式の、例えば美術鑑賞や観劇などの時です。その場合、当然ではありますが、5つ紋付きをお召しになる事はなく、3つ紋または1つ紋の訪問着や色留袖が多いです。海外でも、非公式の場では積極的にお着物をお召しになっていて、同じ(と言うと大変厚かましいのですが)「着物好きの日本人」としては、嬉しく思っています。
昨日の戦没者追悼式典は、皇族として公式行事への出席であれば、お召し物に問題があるのかもしれません。ネットでも様々な声があるようです。が、皇族ではない私には、内部事情が分かるはずもなく、当然ながら何も申し上げる立場ではありません。
ただ、あの式典を見た一庶民としての感想は、素晴らしかった。
もしも美智子様が洋装ロングドレスの喪姿だったら、普段の生活でそのような姿を目にしない一般庶民の私は「やっぱり、皇室は違うわ」と、目に見えない大きな壁を作ると思います。もちろんその壁は作って当然。作らないと不敬ですよね。なので、美智子様はあえて衣装を民間レベルに合わせてくださって、壁を取り払い、「公式行事だから、皇后だから、ではなく、1人の人間として皆と一緒に追悼したい」というお気持ちを表したかったのではないでしょうか?
天皇陛下のおことば後、壇上で天皇陛下とともに略礼装のお着物姿でお掛けになっていらっしゃる中、ご遺族代表のご婦人が、やはり、鼠色っぽい色無地に黒共名古屋帯で弔辞を述べる姿に、その場にいる全員が、立場を超えて心ひとつになって哀悼の意を表していたと感じました。
衣服というのは、時に大変重要な役割を果たします。そしてそれは、受け取る側によっては不快に感じる事も。けれど、衣服の裏に込められたそのかたの気持ちに思いを巡らし、理解しようとする事が、自身の心を穏やかにし、幸せにつながるのだと思います。